ヘルニアというと、腰痛の原因の一つとなる椎間板ヘルニアを想像される方も多いと思います。
今回紹介する症例は、ヘルニアの中でも「横隔膜」ヘルニアです。
ヘルニアとは、臓器や組織の一部が組織の隙間を通って本来あるべき場所ではない部分にはみ出している状態のことです。
よく知られる椎間板ヘルニアは、背骨の骨の一つ一つの間にある椎間板という組織がはみ出して神経を圧迫してしまう病気です。
ヘルニアが発生している部位が椎間板なので、「椎間板」ヘルニアといいます。
さて、今回紹介する横隔膜ヘルニアは、文字通り「横隔膜」に発生するヘルニアです。
横隔膜とは、肺や心臓がある胸腔と、胃や腸などの消化管、肝臓などの臓器がある腹腔を分ける筋肉でできた膜のことです。
正常 | 横隔膜ヘルニア |
この横隔膜が、何らかの理由で破けたり欠損して、腹腔の臓器が胸腔に入り込んだ状態が横隔膜ヘルニアです。
横隔膜ヘルニアの原因の多くは、交通事故や高いところから落下するなどで強い衝撃を受けることで発生します。
まれに、生まれつき横隔膜に穴が開いていたり、欠損していることもあります。
横隔膜ヘルニアになると、胸腔に腹腔のあるべき臓器が入り込んでしまうため、肺や心臓が圧迫され肺がうまく膨らまなくなったり、心臓の動きが妨げられてしまいます。
また、横隔膜は筋肉でできており、その筋肉が動くことで肺を膨らめ呼吸をしています。
その横隔膜が破けていると、それもうまくできなくなります。
さらに、横隔膜の裂け目から胸腔に入り込んだ臓器も圧迫され循環が悪くなることがあります。
その結果、呼吸困難や循環不全を起こします。
横隔膜ヘルニアの治療は、外科的に元の位置に戻し横隔膜を整復することです。
横隔膜ヘルニアは、レントゲンを撮影することで診断できます。
通常はレントゲンで空気は黒く映るため、空気を多く含む肺が大部分をを占める胸部は、中央の心臓以外は黒く映ります。
しかし、このレントゲンでは胸部が全体に白っぽく、本来中央に見える心臓の陰影がはっきりしません。
そのことから、胸部に通常はあるはずがないものがあることがわかります。そして、それが横隔膜側から入り込んでいることがわかりました。
そこから、横隔膜ヘルニアが診断されました。
その後、横隔膜ヘルニアを整復するための手術を行いました。
ここからは、手術の写真を含みます。モノクロに加工していますが、苦手な方はご注意ください。
手術では、まず腹部に出血がないか、臓器に傷がないかを確認します。
次に、横隔膜を確認しヘルニアの状態を確認します。
横隔膜に裂け目があり、腸や肝臓などが裂け目から供給に入り込んでいることが確認されました。
次に、胸腔に入った臓器を傷つけないように引っ張り出し、元あった腹腔に戻します。
この症例では、ヘルニアの開口部が小さく、臓器を引っ張り出すことができなかったため、横隔膜を一部切開し肝臓や脾臓、腸をもとの位置に戻しました。
この時に、圧迫されていた心臓や肺が急に解放されるので、血圧や呼吸の急激な変化に注意が必要です。
そして、横隔膜を縫い合わせ整復し、胸腔内に残った空気を針を刺して抜き肺が膨らむことを確認します。
最後に、腹腔に戻した臓器に損傷がないことを確認しおなかを閉じます。
肝臓に少しうっ血しているところがありますが、他には大きな損傷はありませんでした。
術後 | ||
術前 |
術後のレントゲンと術前のものを比較すると、術前には陰影がはっきりしなかった心臓の陰影がわかるようになりました。
そして、全体に黒っぽくなり肺が膨らんでいるのがわかります。
術後は、数日間入院し経過を観察します。食事をとるようになり容態が安定してくれば退院です。
その他、症例紹介は随時更新していきます。興味がありましたら、ブログの症例紹介をご覧ください。